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東京地方裁判所 昭和53年(手ワ)2618号 判決

原告 滝口芳太郎

被告 東洋工芸社こと 尾崎敏明

主文

一  被告は原告に対し金四五万円及びこれに対する昭和五三年九月一日から支払ずみにいたるまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項につき仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し金六七万五〇〇〇円及び内金二二万五〇〇〇円に対する昭和五二年一〇月二八日から、内金四五万円に対する昭和五三年九月一日から、各支払ずみにいたるまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、別紙約束手形目録記載のような手形要件が記載され、裏書の連続する約束手形一通(以下「本件手形」という。)及び別紙小切手目録記載のような小切手要件が記載された小切手一通(以下「本件小切手」という。)を所持している。

2  被告は、本件手形及び本件小切手を振り出した。

3  本件小切手は、昭和五二年一〇月二八日に支払のため支払人に呈示されたが(支払拒絶がなされ、同日付をもって支払人によって支払拒絶宣言の記載がなされている。

よって、原告は被告に対し、本件小切手金二二万五〇〇〇円及びこれに対する本件小切手呈示の日である昭和五二年一〇月二八日から支払ずみにいたるまで小切手法所定の年六分の割合による利息及び本件手形金四五万円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五三年九月一日から支払ずみにいたるまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は不知。

2  認める。但し、本件手形の受取人欄は白地であった。

3  認める。

三  抗弁

本件約束手形及び本件小切手は、被告が訴外株式会社広栄に対し、融通手形及び小切手としてそれぞれ貸与したものであり、被告には何ら実質上の支払義務はない。

理由

一  請求の原因第1項の事実は、本件口頭弁論期日において原告が本件手形と本件小切手を所持している事実及びその記載によってこれを認め、その余の請求原因事実は当事者間に争いがない。

二  以上の事実によれば、原告の本訴請求のうち本件手形金及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和五三年九月一日から支払ずみにいたるまで年六分の割合による金員の支払を求める限度においては理由があるが、その余の原告の請求は失当である。

すなわち、小切手法一条五号によれば、小切手の振出地の記載は小切手要件とされ、しかも同法二条一項によれば、小切手要件を欠く「証券ハ小切手タル効力ヲ有セズ」と規定されているところ、当該振出地たりうる記載については従来からの判例(大判明治三四・一〇・二四、同大正六・六・一四、最判三七・二・二〇)により最小独立行政区画でなければならないと解されており、したがって、東京都においては区(特別区)が最小独立行政区画となるから、振出地として単に「東京都」とだけ表示した小切手の振出地の記載は不適法であるといわざるを得ない。しかるに、本件小切手の振出地には「東京都」と記載されているのみであって、他にその不完全な記載を補充すべき振出人の住所地の記載もない本件小切手は、その振出地の記載が不適法であって無効であるといわざるを得ず、したがって、原告の本件小切手金請求は失当である。

もっとも、小切手の振出地については単に国際手形法(小切手法)における準拠法決定の基準になりうる意義を有するにすぎないから、これの基準になりうるかぎり最小独立行政区画にとらわれることなく広狭いずれでもよいとする振出地の記載のはたす役割からする実質論も認められるところではあるが、そもそも小切手は厳格な要式証券とされ、それゆえ他には認められない種々の効力(無因証券性等)や便宜(小切手訴訟制度)が認められていること、前述のように振出地の記載については従来から判例により最小独立行政区画とされていたこと、したがって、小切手を使用する者に対し振出地の記載として最小独立行政区画の記載を要求したとしても酷とはいえないこと等をあわせ考慮すれば、あえて現時点において振出地の記載に関する従来の判例を変更する必要性は存しないものというべきであり、当裁判所は、前述の実質論は採用しない。

三  被告の抗弁主張は、原告の請求を妨げる理由とはならない。

四  以上のとおりであって、原告の本訴請求のうち本件手形金四五万円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五三年九月一日から支払ずみにいたるまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条二項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 末永進)

〈以下省略〉

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